春にしては肌寒い日に出くわすと、決まって21年前に出会った一人の女性を思い出す。ただ、その人の顔は知らない。
2003年春、私は初任地の盛岡に降り立った。日々の寒さこそこたえたが人間関係に恵まれ、後に生涯の伴侶を得て「第二の故郷」となるのだが、その時は不安にさいなまれていた。
今となっては思い出したくもないが、当時20代の新米記者の不安の種とは、政治・経済の中心から遠く離れたように感じてしまった自分が、どう筆をふるえばいいかというものだった。
無知のうえに恥も知らなかった私は、勝手に活躍の場がないと思い込み、そんな悩みを紙面につづろうとした。当時の岩手版には「記者メール」というコラム欄があり、記者が思うがまま好きに書くことができた。一部をそのまま引用する。
「『打撲、そんなの記事にならない？』と、ある意味『不幸の度合い』で考えるようになってしまった」
紙面構成の責任者たるデスク…
